大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和41年(ワ)9605号 判決

原告 田中亀松

右訴訟代理人弁護士 池隆憲

被告 同栄信用金庫

右代表者代表理事 笠原慶蔵

右訴訟代理人弁護士 山崎保一

同 伊藤哲郎

主文

被告が債権者被告債務者日貿映画株式会社第三債務者株式会社住友銀行間の東京地方裁判所昭和四一年(ヨ)第七〇〇一号債権仮差押命令申請事件の仮差押決定正本に基き昭和四一年八月二九日別紙目録記載の債権に対してなした仮差押執行はこれを許さない。

訴訟費用は被告の負担とする。

本件につき昭和四一年一〇月八日当裁判所がなした仮差押執行取消決定はこれを認可する。

前項は仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、その請求の原因として、

「一、被告は主文第一項掲記の仮差押決定正本に基き昭和四一年八月二九日、日貿映画株式会社が株式会社住友銀行に預託した預託金の返還請求権である別紙目録記載の債権に対して仮差押執行をした。

二、しかし、右預託金返還請求権は昭和四一年八月二四日日貿映画株式会社から原告に譲渡され、同日同会社より株式会社住友銀行に対して内容証明郵便により右債権譲渡の通知が発せられて、右通知は同月二五日同銀行に到達した。

三、よって被告が仮差押執行をした債権は原告に属するものであるから、右仮差押執行の排除を求めるため本件異議の訴に及んだ。」

と述べ、被告の抗弁に対し、

「一、不渡異議申立提供金は、手形の支払銀行が当該手形の支払を拒絶するにつき支払義務者の信用に関しないものと認めて手形交換所の定めた手形交換規則に従って提供する保証金であって、通常支払銀行は支払義務者よりこれに相当する金員の預託を受けるが、右は事実上の慣行として行われているものであって、なんら手形交換規則の定めるところではなく、そしてその支払銀行が手形交換所の定めた手形交換規則に拘束されるのはそれが加盟団体の規則(東京手形交換所交換規則は東京手形交換所の置かれる社団法人東京銀行協会が定立したものである)であるからであって、その効力が加盟銀行の範囲外に及ぶことはないから、支払銀行から手形交換所に対する提供金の預り証に譲渡禁止の文言が記載されているからといって、手形の支払義務者から支払銀行に対する預託金の返還請求権の譲渡が禁止される理由なく、また本件預託金の返還請求権について預託者たる日貿映画株式会社と株式会社住友銀行との間においてはなんら譲渡禁止の特約はなされていないから、右預託金返還請求権は譲渡が禁止されているからその譲渡は無効であるとの被告の主張は理由がない。

二、原告が日貿映画株式会社のいわゆる会長に就任した事実はなく、また商法第二六五条の取締役の範囲に会長が含まれるとの被告の主張も根拠がないから、日貿映画株式会社より原告に対する債権譲渡が右商法の規定に違反し無効であるとの被告の主張も理由がない。」

と述べた。

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、

「原告主張の請求原因事実中第一項の事実は認めるが、第二項の事実は不知、第三項の事実は争う。」

と述べ、抗弁として、

「一、仮に原告主張の日貿映画株式会社の株式会社住友銀行に対する預託金返還請求権が原告に譲渡されたとしても、右債権は左の理由によって譲渡が禁止されているから右譲渡は無効である。

すなわち、手形の支払銀行から手形交換所へ提供される不渡異議申立提供金は、手形交換所から支払銀行に交付される預り証に譲渡禁止の文言が記載されており、従ってその返還請求権は譲渡が禁止されているものと解されるところ、支払銀行は手形の支払義務者から右提供金に相当する金員の預託を受けてこれを手形交換所に提供するのであるから、その預託金は支払銀行から手形交換所に提供される提供金と実体を同じくするものであって、同様に譲渡が禁止されているものと解すべきである。

二、また、原告は日貿映画株式会社のいわゆる会長であって、商法第二六五条の取締役の範囲にはいわゆる会長も含まれると解すべきところ、日貿映画株式会社より原告に対し本件預託金返還請求権を譲渡することにつき取締役会の承認がなされていないから、仮に右債権譲渡がなされたとしても右譲渡は右商法の規定に違反し無効である。」

と述べた。

≪証拠省略≫

理由

一、被告が主文第一項掲記の仮差押決定正本に基き昭和四一年八月二九日、日貿映画株式会社が株式会社住友銀行に預託した預託金の返還請求権である別紙目録記載の債権に対し仮差押執行をしたことは当事者間に争がない。

二、しかし、≪証拠省略≫及び弁論の全趣旨によれば、日貿映画株式会社は昭和四一年八月二四日株式会社住友銀行に対する前記預託金返還請求権を原告に譲渡し、同日同銀行に対して内容証明郵便により右債権譲渡の通知を発し、右通知書は翌二五日同銀行に到達したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はないから、本件預託金返還請求権は被告のなした仮差押執行当時既に原告に帰属していたものといわなければならない。

三、被告は右債権は譲渡が禁止されているので右債権譲渡は無効であると主張するけれども、被告主張のように手形の支払銀行から手形交換所に対する不渡異議申立提供金の返還請求権の譲渡が禁止されているからといって、支払義務者から支払銀行に対し右提供金の資金として預託した金員の返還請求権の譲渡も亦当然に禁止されると解する理由はなく、また日貿映画株式会社と株式会社住友銀行との間で本件預託金の返還請求権につき譲渡禁止の特約がなされたこともなんら被告の主張立証しないところであるから、被告の右抗弁は採用できない。

四、更に被告は、原告は日貿映画株式会社のいわゆる会長であって、商法第二六五条にいう取締役にはいわゆる会長も含まれるから、取締役会の承認を得ずになされた本件債権譲渡は右商法の規定に違反し無効であると主張するが、原告が右会社の取締役であるとの証拠はなく、そして取締役でない以上いわゆる会長であるからといって商法第二六五条の取締役に含まれると解すべき理由はないから、右の主張も亦到底採用し難い。

五、よって、日貿映画株式会社に対する仮差押決定正本に基いて、既に原告に帰属した債権に対し被告がなした本件仮差押執行の排除を求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を、執行取消決定の認可及びこれに対する仮執行の宣言について同法第五四九条第五四八条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 今村三郎)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例